王子総合病院では、令和元年10月より手術支援ロボット「ダ・ヴィンチX」を用いたロボット支援下手術を開始しています。導入当初は、泌尿器科疾患である前立腺がんの患者さんにだけ、このロボット支援下手術を行っていましたが、翌年からは、産婦人科、外科も加わり各領域の多数疾患に対しても行なうようになりました。このページでは、当院で導入しました最新型ロボット「ダ・ヴィンチX」についてご紹介いたします。
手術の歴史は、全身麻酔の進歩に伴い19世紀後半に、お腹を大きく開けて行う開腹手術の基本方法が確立しました。しかし、患者さんの傷の痛みや回復までの期間を少しでも改善するために、1990年代には、お腹に小さな穴を数カ所開け、そこからビデオカメラのついた内視鏡や鉗子(内臓などをつかむピンセットのような器具)などを挿入して行なう腹腔鏡・胸腔鏡手術が行われるようになりました。その腹腔鏡手術をさらに進化させ、ロボットに手術を行わせるように開発されたのが「ダ・ヴィンチ」という手術用ロボットです。
「ダ・ヴィンチX」は3台の機器から構成されています。右がサージョンコンソール(術者の操作機器)。真ん中がペイシェントカート(実際にお腹の中で手術を行う機器)。左がビジョンカート(画像などの制御機器)です。(写真=Intuitive Surgical, Inc.)
このロボットには4本のアームがあり、術者の腕・手・指そして目の代わりをしてくれます。そのため、執刀医は、これまでのように患者さんの前に立つことはなく、少し離れた場所で双眼鏡のようなテレビモニターに映し出されるお腹の中の映像を見ながら両手両足を駆使し「ダ・ヴィンチ」の操作を行います。
ダ・ヴィンチを使ったロボット手術のイメージです。手前で機械に頭を入れている人が執刀医です。奥で患者さんはベッドの上に横になり、4本のロボットアームがお腹の中に入っています。奥にいる助手の医師は、これまでの手術同様、患者さんのすぐそばに立ち操作の補助をします。(写真=Intuitive Surgical, Inc.)
その体内の様子は、3D(立体)化されているため、あたかも自分がヒトの体の中に入っているような錯覚を起こすほどリアリティーがあります。また、映像を無段階に拡大することも可能ですので、開腹手術では見逃してしまうような細い血管も確認でき、出血量の減少につながります。
ダ・ヴィンチがお腹の中で組織を縫っているイメージです。拡大された立体画像により細い血管や神経を捉えることができます。 (写真=Intuitive Surgical, Inc.)
さらに、ロボットの鉗子には、ヒトの手首以上に自由度の高い関節機能を有しているうえ、手振れ補正機能もついているので、非常に緻密で正確な手術が可能となります。
術者の指・手・腕の役目をロボットが行います。(写真=Intuitive Surgical, Inc.)
これまでの腹腔鏡手術では難しかった様々な角度からのお腹腔内視野(立体カメラ)の確保、また非常に狭い空間での繊細かつ自由自在な手術操作が可能となるため、出血量の減少など、患者さんにとって体への負担がより少ない低侵襲手術が可能となります。
「ダ・ヴィンチX」導入後、当院におけるロボット支援下手術数は急速に増え、令和3年に入り、泌尿器科、産婦人科、外科の3科で毎月十数例の手術が行われています。なお、保険治療としてロボット支援下手術を受けられる疾患には限りがあります。また、病気の状態によってはロボットを使わない手術をお勧めする場合もあります。ご不明な点がありましたら各科担当医にご相談ください。